あちこち回りつくしてもうここが最後だと思っていたときに「ここだ」と思える塾に出会いました。電話で問い合せると塾長が電話口に登場。いくつかわが家の現状を質問されました。

 すると「うちでお預かりすればお母さんは何もする必要はありません。大量の宿題も出しませんし全部塾で完結します。精神年齢に応じて小学生の伸びしろは変わりますので、良い学校に入れるという保証はできませんが、無理を強いて子どもを壊すこともしません」と言われてビックリ。他とまったく違いました。

 わたしは塾長の話を食い入るように聞き、「塾」とか「勉強」という言葉にウンザリしている息子を引きずってなんとか塾長との面談に連れて行きました。「もう塾なんて嫌だ!」という息子に塾長が声を掛けました。「君さぁ、トイレって一人で入るよね? お母さんにお尻拭いてもらう?」。息子はキョトンとして「さすがにそれはない」と一言。

 塾長は息子の返事に「でしょ? 勉強も同じで自分でやるものなんだよ。お母さんに言われてやるもんじゃないんだよ。うちの塾はみんな楽しいって来るけど、君が来たくないなら来なくていいよ。でももし自分でやってみたいと思うんだったら全力で手を貸すよ。俺は受験のプロだから。どうする? 最後は自分で決めろよ」とオトコマエな言葉を投げかけました。

 すると息子は「うーん……ちょっとやってみたい気がする」と小声で返したのです。塾長は「やってみたい、じゃなくてやる、って言わないとダメ!」とハッパをかけます。すると息子は「じゃあ……やる!」と宣言。この一言で入塾が決まりました。

◆塾長にがん乳がん治療中であると伝えると

 後から知りましたが、この塾長は人心掌握術にたけており、子どもにやる気を出させるなんて朝飯前。塾長とのやりとりも振り返ってみれば、少し突き放してプライドをくすぐるようなことを言われれば、家では甘えん坊の息子でも「やる」と言ってしまうよなぁと納得。子どもの視線に合わせて話すことができるんだなと感心しました。