このデスマッチシーン、ゆりやんも唐田も取り憑かれたように血みどろになる狂乱ぶりを見せ、歴史の一部分になっている。再現場面ながら、充分にヤバさが伝わってくる。

 そして敗者に待っているのは、観衆の前で丸刈りにされるという屈辱だ。女子プロレス史上に残る伝説の試合であり、生中継していたテレビ局には苦情が殺到した。今では地上波放映は無理であろう残酷ショーが、80年代にはまだテレビ放映されていた。

 本作を企画・プロデュースし、脚本も担当したのはバラエティー畑出身の鈴木おさむだ。長きにわたってテレビのバラエティー番組の構成作家を務めてきた鈴木が実話ベースのドラマを企画したことに、配信前は疑問を感じていた。だが、最終話の髪切りデスマッチを見て、納得した。

 鈴木おさむは人気番組『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)の生放送の番組冒頭、SMAPが視聴者ならびにジャニーズ事務所の創業者に解散騒ぎが起きたことを謝罪するという異例の事態を、間近で目撃している。SMAPが読み上げた謝罪文は彼が書いたそうだ。「公開処刑」と騒がれたテレビ史に残る事件だった。

 すでに業界からの引退を表明している鈴木おさむだが、テレビにおける歴史的な残酷シーンを自分が企画した実録ドラマの中で振り返ってみたかったのではないだろうか。

男が決めた「ブック」を破る女たち

 女子プロレスの世界を描いた『極悪女王』は、10代~20代の若い女子レスラーたちが、松永兄弟(村上淳、黒田大輔、斎藤工)らに搾取される物語でもある。クラッシュギャルズや極悪同盟が血を流しながら闘えば闘うほど、松永兄弟による同族経営だった「全日本女子プロレス」は大いに潤った。対戦カードだけでなく、「ブック」という隠語で呼ばれる試合の勝ち負けを事前に決めるのも彼らだった。

 だが、予定調和で進むプロレスほど、つまらないものはない。波乱が起きるからこそ、ファンは熱狂する。そして「ブック」に従わず、敢然と反逆したレスラーこそが輝くことになる。物語の最後、ダンプ松本、長与千種、そしてライオネス飛鳥ら女子レスラーは、男たちが決めた「ブック」を平然と破る。このとき、彼女たちは最高に輝く。さまざまな利害や人間関係が渦巻くドロドロしたリングに、爽やかな風が吹き抜ける瞬間だ。