アダルトビデオ界の風雲児・村西とおるの浮き沈み人生を描いた『全裸監督』(19年、21年)、ビートたけしと師匠・深見千三郎との出会いから別れまでを描いた『浅草キッド』(21年)と、Netflixが放った実録ドラマはどれも大ヒットしている。9月19日の世界配信前から大きな話題を呼んでいたのは、ゆりやんレトリィバァ主演の『極悪女王』全5話だ。配信開始翌日には、国内人気ランキングのトップになる好調ぶりを見せている。
舞台となるのは、1980年代の女子プロレス界。空前の大ブームとなったクラッシュギャルズと敵対し、ヒール軍団・極悪同盟を率いたダンプ松本の半自伝的物語だ。全米進出を目指すゆりやんは1年間におよぶトレーニングを受け、撮影に臨んだ。恋愛スキャンダルで女優としてのキャリアを半ば失っていた唐田えりかがクラッシュギャルズの長与千種、剛力彩芽がライオネス飛鳥になりきり、プロレスシーンを演じているのも大きな見せ場となっている。
ダンプ松本こと松本香が、女子プロレスの世界に飛び込んだのは家庭事情があった。父親は根っからの遊び人で、たまに稼いだお金はギャンブルや酒に使い、家庭には一円も入れなかった。そのため松本家は貧乏を極め、松本は学校の給食費を払うのにも苦労したという。「父親を殺してやりたい」という憎しみと、「母親を早く楽させたい」という優しさから、松本は「全日本女子プロレス」に入門する。
厳しいトレーニングに加え、先輩レスラーたちのいじめやえこひいきも待っていた。同期入門の女の子たちが次々と去っていく中、松本はしぶとく生き残った。父親への強い怒りと母親への想いがあったからだ。そんなドロドロの人間関係の世界を、『凶悪』(13年)や『孤狼の血』(18年)などで知られる白石和彌総監督が、ホームグラウンドのように生き生きと描いている。白石監督は少年期に両親の離婚を体験しており、複雑な家庭で育った主人公たちへの感情移入もあるように思う。