◆不思議と吹き込む音楽の風

 音楽の魅力とは、音楽を中心としてその周囲にさまざまな音楽的な雰囲気が広がっていることである。

 優れた音楽家でもあった青山真治監督の諸作品に出演する浅野忠信ほど、音楽的な俳優を筆者は知らない。

 ちょっと風変わりな阿部寛主演ドラマ『すべて忘れてしまうから』(ディズニープラス配信、2022年)で、Chara扮するバーのオーナーは、最終話で自らマイクの前に立ってみせた。

 そんなふたりを両親に持つ佐藤緋美にしか出せない独特の雰囲気がある。

 岸井ゆきの主演の傑作ボクシング映画『ケイコ 目を澄ませて』(2022年)で、主人公の弟役を演じた佐藤が、部屋の片隅でギターをかき鳴らす姿を見て、この人の感性は本物だと思った。

 それは佐藤本人の才能だし、薄ぼんやりした雰囲気は間違いなく浅野とChara譲りの魅力でもある。

 宮沢だって父から音楽的な素養をもらってるはず。『さよならマエストロ』第3話でピッチの悪さを指摘された大輝が、天才チェリスト・羽野蓮(佐藤緋美)とリハ中に大げんかする場面は、もちろん2世俳優バトルとして図式化することもできる。

 でも、その後、ふたりだけで演奏する和解場面を見て、不思議と吹き込む音楽の風を感じるほうがずっと豊かな気持ちになると思う。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】

音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu