大規模な火事に御所が見舞われることはあまり珍しいことではなく、村上天皇時代の天徳4年(960年)、さらにドラマにも登場した円融天皇(ドラマでは坂東巳之助さん)時代には、貞元元年(976年)、天元3年(980年)、天元5年(982年)と、「鏡」などが安置されてあった宮中の「内侍所」まで火の手が迫った記録があります。
しかし天照大神の御神体とされる「鏡」は焼亡をまぬがれつづけ、さすがに天皇や貴族たちも神秘の力を感じずにいられなかったのですが、一条天皇時代の寛弘2年(1005年)11月15日の夜、宮中・温明殿からあがった火の手は内侍所の建物をも焼き尽くしました。そして「神鏡、大刀(略)尽く焼亡す。僅(わずか)に帯あり。(略)焼損して円規なく鏡形を失ふ」(藤原実資『小右記』)という悲惨な結果となったのです。鏡は溶けて円形ではなくなってしまい、紐だけが見つかったと訳しうる内容です(その後も鏡は火事にあうたび、作り直したらしいのですが、詳細は不明)。
ちなみにドラマの時間軸よりも100年くらい後にあたる平安時代末には、現役の天皇ですら「鏡」をはじめ「神器」の類いを、いかなる理由があっても目にすることは許されないという規則ができたようですが、「鏡の形がもともと円形だった」と、平安時代中期の藤原実資(ドラマでは秋山竜次さん)が知っている素振りなのは面白いですよね。「鏡といえば円形だから」という、ただの類推かもしれませんが、平安時代中に何度も大火に襲われ続け、被害に遭った結果、オリジナルの「神器」の状態が極めて悪くなってしまい、それは天皇の権威にも直結していると考えられたため、平安時代末には「神器」を直接見ることは禁忌中の禁忌になってしまったのかもしれませんね……。