またドラマではどうやら明確な理由があって、まひろが『源氏物語』冒頭の「桐壺」の段から順番に物語を書いていったとされているようですね。順番説を唱える研究者などもいますが、筆者が分析するかぎり、正確ではないと思います。おそらくは、短編小説的な起承転結がはっきりしている「夕顔」の段(物語の中では第4帖)などから書き始められ、それが評判を呼んで、「光る君(光源氏)」の物語がもっと読みたいという読者の要望を受けてリライトされ、大長編『源氏物語』に組み込まれていったのではないか……と考える筆者なのですが、ドラマで最初から物語が順番に書かれていっていたのは、おそらく一条天皇とまひろの「対決」を描くための伏線なのだと思われます。

「桐壺」の段に登場する桐壺帝と桐壺更衣の悲恋を、一条天皇は自分が今は亡き定子(高畑充希さん)に注いだ愛情を批判している内容だと受け取っているようで、モデルとして、作者にクレームを入れたいと考えているのでしょう。それこそが、まひろの物語を楽しんでいるようにまったく見えない天皇が、作者に会いたいと言い出した“興味”の内訳なのではないでしょうか。

 史実の一条天皇も『源氏物語』の愛読者ではあったらしいのですが、どのように興味を抱いていったのかは知られていません。しかし、天皇が物語の内容への反発から、逆に関心も持ったという、ドラマ脚本を担当された大石静先生の解釈は斬新でありながらも、惹かれるものがありました。天皇とまひろの間にどんなやり取りが描かれるのか……というあたりには興味津々なのですが、おそらくドラマではそれが同僚との人間関係以上に彼女を傷つけ、出仕拒否にもつながっていくのではないか、と見ています。

 さて、前回の内容についても触れておきましょう。中宮・彰子を火事から救いだす一条天皇が意外なまでにヒーローっぽく、走るのも早くてびっくりした筆者ですが、現在でも天皇の即位儀式に必須の「三種の神器」のうち、「八咫鏡(やたのかがみ)」が焼失したという事実に驚いた方もおられるのではないでしょうか。