◆それが異常だという自覚はなかった

 莉子さんの極端な姫気質について、園田さんは「彼女の不幸な生い立ちが影響している側面は無視できない」と言う。その詳細をここに記すことはできないが、ひとつだけ書けるとすれば、「莉子さんの母親もヒステリーで、物を投げて壊す人だった」ということだ。

 結婚前に、ヒステリー気質の片鱗のようなものは発見できなかったのか。

「いえ、まったく。友達がすごく少なかったことや、『人に興味がない』が口癖だったことは、ヒントだったのかもしれませんが……」

 園田さんは、自分が莉子さんを甘やかしたせいで、より一層「言えば言っただけ、泣けば泣いただけ意見が通る」と莉子さんに思わせてしまったと振り返る。

「でも、僕が断固として莉子の要求を拒否したり、何か意見したり、交渉を試みたりすれば、絶対に揉める。揉めたら絶対にヒステリーになる。泣きわめき、暴れ、物を壊すでしょう。それだけは……絶対に、絶対に嫌でした」

 そのためには、甘やかすしか方法がなかった。

「莉子の人生を莉子の望み通りにするため、僕は自分の感情にふたをしていました」

 しかし疑問は残る。なぜ早く莉子さんと離婚しなかったのか。離婚すればすぐに逃げられるではないか。そう聞くと、園田さんは不思議なことを口にした。

「実は僕、それが異常な状態だということに気づいていなかったんですよ、8年間」

◇後編「離婚に理由なく慰謝料750万円要求する妻…夫がすんなり支払った理由」に続く。

【ぼくたちの離婚 Vol.25 シュレーディンガーの幸せ 前編】

<文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>

【稲田豊史】

編集者/ライター。1974年生まれ。映画配給会社、出版社を経て2013年よりフリーランス。著書に『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)、『オトメゴコロスタディーズ』(サイゾー)『ぼくたちの離婚』(角川新書)、コミック『ぼくたちの離婚1~2』(漫画:雨群、集英社)(漫画:雨群、集英社)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)がある。【WEB】inadatoyoshi.com 【Twitter】@Yutaka_Kasuga