【ぼくたちの離婚 Vol.25 シュレーディンガーの幸せ 前編】
書籍化・コミック化も果たした人気ルポ連載「ぼくたちの離婚」。これまであまり語られてこなかった「男性側の視点から見た離婚」をライターの稲田豊史さんが取材しました。
※以下、稲田さんの寄稿。
近年、「夫源病」や「カサンドラ症候群」など、パートナーとまともにコミュニケーションがとれない、心を通わせることができない状況下で心身に不調をきたすケースへの注目が高まっている。今回話を聞いた園田圭一さん(仮名/39歳)は、8年に及び「妻の顔色だけをうかがう生活」を送っていた。しかし本人は、それが自身の心を蝕んでいることにまったく気づいていなかったという。
◆コミケ会場で知り合った2人
園田圭一さんは、大手企業の財務部に数年在籍したのち、退職して某エンタメ系ベンチャー企業の立ち上げにCFOとして参加。同社を軌道に乗せた立役者として、CEOから絶大な信頼を得ている人物だ。
筆者はそのCEOと以前から知り合いで、ある飲み会で園田さんを「とにかく仕事ができる男。抜け漏れというものがない」と紹介された。社交性に富んでいて話しやすく、映画、アニメ、マンガ、ゲームなどの知識が豊富。それらの文化的な意義や歴史にもかなり通じている。
園田さんは2010年、27歳のときに当時24歳の莉子さん(仮名)と結婚し、10年後の2020年に離婚した。子供はいない。
ふたりが知り合ったのは、コミケの会場。それぞれ別の友人と会場を訪れていたが、園田さんの友人と莉子さんの友人が知り合いだったことから交流が始まった。莉子さんが女性にしてはかなり珍しく、ある青年向けアニメに詳しかったため、同作の大ファンだった園田さんと意気投合したのだ。
「莉子は童顔・スレンダーのモデル体型で、少女っぽいフリルのついた服が好み。いかにもオタクからモテそうなオーラ全開でしたが、本人は社交性に乏しく人嫌いで、同性・異性ともに友達が少ない。過去に付き合った男性はいたものの、肉体関係までいったのは僕だけだと言っていました」(園田さん、以下同)