税金上の扶養に親を入れるには

親を税制上の扶養親族対象にするには、その親が以下の要件を満たしている必要があります。

  1. 親の年間の合計所得金額が38万円以下(給与のみなら103万円以下)
  2. 納税者と生計を一にしている

    まず要件1ですが、親を扶養に入れようと考えるケースでは、実態として親の収入が「年金収入のみ」であることが多いため、次のように読み替えると分かりやすいでしょう。

65歳未満:収入が年金のみで年間108万円以下
65歳以上:収入が年金のみで年間158万円以下

要件2の「生計を一にしている」とは、あなた(納税者)と親の生計が一緒であること、つまり「あなたが親を養っている」という意味です。しかし、この「生計が一緒」という状況は、実は明確な基準がありません。

別居であっても頻繁に生活費や医療費などの仕送りをしている実態があれば、生計が一緒と見なされます。そして、たとえ仕送りしていても小遣い程度の額でしかなければ、「同一生計」ではないとされて、親を扶養に入れることはできないのです。

また、この「同一生計」は必ずしも同居している必要はありません。明確な基準がないだけに判断しにくいところですが、ひとまず「健康保険上の扶養」の要件を満たす仕送りはしておいたほうがよいでしょう。

ちなみに、健康保険上、税金上のどちらの場合でも、親を扶養に入れるための要件は親自身の収入(主に年金)に基づきます。仮に、親の年齢を66歳、会社員時代の平均年収を400万円、年金加入期間30年としたときの年金受給額(厚生年金+国民年金)は、ざっくりとした計算でおよそ年間160万円といったところでしょう。

国税庁の民間給与実態統計調査によると、2016年の平均給与額は約422万円でした。ここから考えると、親の現役時代の全般的な経済レベルが平均程度であっても、子の扶養に入れる可能性があるのは健康保険上の扶養のみということになります。

つまり、「ずっと自営(国民年金)だった親が廃業した場合」や「親が勤めていた会社が倒産し、長期間アルバイトだった場合」といったようなケースのときに、この手段は活用できると言えそうです。

(写真=vectorfusionart/Shutterstock.com)

 親を扶養に入れる手続きって?

それでは、実際に親御さんを扶養に入れる手続きについて説明していきます。

まず、先ほどもお伝えした通り、扶養は大きく「健康保険上の扶養」と「税金上の扶養」があり、実際の手続きも2つそれぞれで行う必要があります。とはいえ、前述の要件さえ満たしていれば、手続きそのものは比較的簡単ですので、ご安心ください。

1. 親を健康保険上の扶養家族にする手続き方法

この手続きは、子(あなた)の勤めている会社を通して行います。扶養親族対象の要件をクリアしたら、以下の書類を健康保険の担当部署に提出しましょう。

【同居している親の場合】
・世帯全員の住民票
・親の課税(非課税)証明書

【別居している親の場合】
・親の戸籍謄本(あなたとの続柄が分かるもの)
・仕送りを証明するもの

ちなみに、「仕送りは現金で手渡していたから、公的に証明できるものはない」と言っても、なかなか認めてもらえません。例えば、振り込みにして送金内容の記載部分を記帳しておいたり、現金書留で送りその控えを保管しておくなど、証明を提出できるような対策が必要です。

 2. 親を税制上の扶養親族にする手続き方法

「税金上の扶養」の手続きは実に簡単です。要件を整えた状態で、年末調整のときに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を会社に提出するだけで完了します。

ただし、親と別居中であれば、健康保険上の扶養と同じく、「仕送りを証明するもの(生計を一にしていることの証明)」も提出します。

手続きそのものはどちらも簡単ですね。

難しいのは、やはり「要件を満たすこと」でしょう。誰もが利用できる方法ではありませんが、もしあなたが、親を扶養に入れやすい環境にあるならば、利用を検討する価値は十分アリといえます。

(写真=Rawpixel.com/Shutterstock.com)

 親を扶養に入れるならどのタイミングがベストか?

親を扶養に入れるのにベストなタイミングはあるのでしょうか。

まず大きな枠で考えた場合、やはり「親の収入が(大幅に)減ったタイミング」です。具体的に、もっとも多いのは「親が退職したとき」でしょう。こういったとき、親からしたら少しでも支出が減れば助かりますし、子(あなた)からの仕送りもうれしいものでしょう。

ちなみに、この頃になると将来的に親を介護することも見据えて、同居を検討し始める方も増えてきます。同居すれば、さらに親を扶養に入れやすくなりますから一石二鳥といえますね。

もちろん、親を扶養に入れるには子(あなた)自身の経済力も重要になりますが、親を扶養に入れられるほどの経済力があればなおさら、あなたの節税効果も高くなります。

小さな枠で考えた場合、タイミングは「12月」です。というのも、税金は1月~12月の収入を基準に計算されますし、家族の扶養人数も12月31日時点の扶養状況で判断されるからです。

それだけに、タイミングを見計らって12月に親を扶養に入れることができれば、ひとまず初年度だけではありますが、1ヵ月分の扶養(負担)で1年分の扶養(負担)の節税効果を得ることができるため、実に効率的です。

親の経済的余裕によっては、そこまでのタイミングを見計らうのは困難かもしれませんが、もし狙えるようなら12月まで待って扶養に入ってもらいましょう。

(写真= Icatnews/Shutterstock.com)

親を扶養に入れたときのデメリット

親を扶養に入れるのはメリットばかりではなく、やはり、デメリットもあります。具体的にいえば、以下のような点がデメリットとなります。

世帯収入によっては介護保険料が高くなる
状況によっては遺族年金が受給できなくなる
親が75歳以上になると効果は減少
75歳未満でも(健康保険の)所得区分が変わり、医療費の自己負担額が増える可能性がある

 デメリット1:介護保険料の増額

親を扶養に入れることで世帯収入が上がると、介護保険料が高くなります。もっとも、高くなっても基本的には年間5万円程度で収まることが多いため、さほどのデメリットにはならないかもしれません。

デメリット2:遺族厚生年金が受給できなくなる

例えば、厚生年金を受給している夫の扶養だった母親が子供の扶養に入った場合、夫が亡くなった後に遺族厚生年金がもらえなくなる点には注意が必要です。

遺族厚生年金は、被保険者である夫の死後にその妻(母親)が生涯受け取ることができる年金ですから、妻の立場からすれば、むしろ損になりかねません。ただし、夫が国民年金であれば、妻はそもそも遺族厚生年金を受け取れませんから、子供の扶養に入っても特に問題にはなりません。

厚生年金加入者である配偶者の扶養に入っていた親を扶養に入れるべきかは、十分に検討しましょう。

デメリット3:75歳以上の親には効果減少

75歳になると医療保険は後期高齢者医療制度に移行します。そのため、税金上の扶養関係は残るものの、75歳以上の親の健康保険料や医療費控除などについては効果がなくなってしまいます。

これは親にとってだけでなく、子にとってのメリットも減少することになる点にも注意が必要です。

 デメリット4:75歳未満でも医療費自己負担額増加の可能性

親が75歳未満であっても、子供の扶養に入ることで、親の所得区分が現役並み世帯と見なされる可能性があります。そうなると医療費の上限が上がりますので、結果的に医療費の自己負担額が上がってしまうリスクがある点にも注意しましょう。

例えば、高額医療を受けていたり、月々に一定以上の通院費や薬代がかかっている親の場合、医療費自己負担額の増加分が節税額を上回ってしまうかもしれません。家族全体で見たときに、むしろマイナスになってしまう可能性も考えてください。

(写真=Pressmaster/Shutterstock.com)

 親を扶養に入れる前にメリット・デメリットを比較しよう

親を扶養に入れると、親にとっては「健康保険料を無料にできて仕送りも確保」、子供にとっては「節税」と、家族全体で見ても世帯ごとで見ても大きなメリットを得られます。

その反面、特に「将来的に親が遺族厚生年金をもらえなくなる場合」と「親の所得区分が変わって医療費増大の可能性」には、注意が必要です。

あなたの家族の状況に合うならば、デメリットを意識しつつ、親を扶養に入れることも節税の一手段として検討していきましょう。

文・婚活FP山本/DAILY ANDS

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