◆「彼の曲は今でも嫌いにはなれません」
そのまま、父の車に乗って、実家へと連れ戻されることになりました。
「それから彼には直接会っていません。お腹の赤ちゃんは堕ろす決断をしました」
後悔や罪悪感はあったものの、彼と萌夢さんとの間に未来は無いということは萌夢さん自身が一番分かっていました。
萌夢さんは今、地元のカフェでウェイトレスとしてバイト生活をしています。一時期は酷く体調を崩していましたが、半年経った最近は体重も元に戻ってきて、就職活動も始めているそうです。
「時々、テレビで彼が歌っている姿を見かけます。もうライブに行くことはありませんが、今でも彼の曲は嫌いにはなれません。ううん、大好きです」
萌夢さんは、彼女自身の青春のすべてをバンドに、何より、彼に捧げましたが、後悔はまったく無いそうです。大切な思い出として胸に刻まれています。
―シリーズ「二度と会いたくない人」―
<文/浅川玲奈>
【浅川玲奈】
平安京で生まれ江戸で育ったアラサー文学少女、と自分で言ってしまう婚活マニア。最近の日課は近所の雑貨店で買ってきたサボテンの観察。シアワセになりたいがクチぐせ。