◆萌夢さんをじっと見つめる中年男性の影

 ある日のライブ終わりのことです。

 メンバーのために飲み物を買おうと、搬入口近くの自販機に向かいました。自販機でコーヒーやジュースを買っていると、背中に視線を感じます。ちらりと後ろを振り向くと、中年男性の姿が見えました。

萌夢さんをじっと見つめる中年男性の影
 辺りに人気はなく、少し不気味に思っていたのですが、その中年男性はいっこうに立ち去ろうとはせず、直立不動でこちらをじっと見続けていました。

 手早くジュースを買い、バッグに放り込んで立ち去ろうとした際に、振り向きざまに、中年男性の顔をちらりと見ました。その顔を、萌夢さんは知っていました。

 萌夢さんの父でした。

 自分の記憶の中の父より、少し皺が増えて老いた父。黙ったまま、微笑を浮かべて手を広げました。萌夢さんはその瞬間、涙が溢れて、父の胸に飛び込みます。