叶井と倉田と娘の穏やかな日常
倉田 父ちゃんが病気で死ぬかもしれないっていうのに、あの子、1回しか泣いてないもんね。あんたが言ったとき、1回だけ泣いたけど。
叶井 泣いてたかな。
倉田 それだけ。私がむちゃくちゃ泣いてるだけ。顔もこの人に似てるし、人間も似てる。私だったら、自分の父親が死にそうってなったら、あんなに普通に遊んだりできないもん。平気な顔して遊んでるよね。
叶井 ずっと部屋で友達と電話かLINEしてるからね。
倉田 うちの家庭では、誰かが怒鳴るってことがないんです。娘も穏やかだし。
叶井 そうだね。
倉田 子育てについては、これは私だったら到達できなかったってことは時々あって。例えば私は受験勉強をちゃんとやったほうだから、娘が全然勉強してないのを見て、「勉強したほうがいいんじゃないか」とか、ちょっと言ったりはするんですよ。あんまり教育ママじゃないですけど。あるとき、本当に怠けてて、友達と勉強するとか言いながら全然してなくて、返ってきた成績もよくないっていうときに、娘を呼んで説教をしたんですね。高校とか内申もあるんだし、勉強したほうがいいんじゃないかって。そしたら、この人が来て「もう怒らないでやってくれよ」って。
叶井 「本人がやりたいことをやらせろ」って言ったの。
倉田 そう。「くらたまは勉強できたし、それが意味のあることだと思って好きだったかもしれないけど、この子は違うんだよ」と。「塾とか行ったって今日のごはんのことしか考えないんだから、あんたとは違う人間なんだ。どうせ人間って楽しいことしかやれないんだから、無理やり勉強なんかやらせないでくれ」って私、怒られたんです。もっともだと思って。当たり前に、人間楽しいことしかやれないっていう、この人は本当に真理に近いところにいるなって。全然何も考えてないくせに、本当に正しいことを言うなって思って、そのときは感動しましたね。去年のことですけど。