◆たまたま「はて」が共鳴すること
伊藤が朝ドラ俳優の大チャンスをものにする伏線となったドラマ『いいね!光源氏くん』(NHK総合、2020年)を忘れちゃならない。同作は、千葉雄大扮する光源氏が『源氏物語』の世界を抜け出して現代にタイムスリップしてくるコメディ。
第5話、光源氏に続いてタイムスリップしてきた頭中将(桐山漣)の住まい探しで、今どきホストのヒカル(神尾楓珠)の豪華なマンションに招かれたときにこの一言。
平安時代の暮らしとのギャップを感じた光源氏が素朴な疑問と感嘆まじりに「はて」とつぶやいた。現代社会に対する好奇の眼差しとして、このオリジナルな「はて」が発せられたのだ。
『虎に翼』の「はて」と『いいね!光源氏くん』のそれのどちらがオリジナルというより、伊藤沙莉出演作品がこうして地続きにあり、たまたま「はて」が共鳴することが興味深い。
21世紀を生きる伊藤にとって寅子が生きた時代は当然、自分とは遠い過去のこと。役作りとして、圧倒的過去の人物(他者)をどう自分に引き寄せ、そして現代の自分が演じる意味をそこに見だすのか。光源氏が過去からやってきたのなら、その逆で過去にタイムスリップしてみる。
寅子を通じて過去の時代性を知るうち、伊藤自身もさまざまな疑問がわく。そして自然と口をついて出てくる「はて」を合言葉として伊藤は役柄をつかむ。
寅子→伊藤→視聴者の順に率直な疑問が代弁される数珠繋ぎが、「はて」を流行語大賞までつなげてくれたら、ちょっとは風通しのいい日本社会になるんじゃないかしら?
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu