◆憑依型の演技というより能楽師タイプの演技
この発言からわかるのは、寅子が発する「はて」を役柄として理解しつつ、伊藤自身の「はて」への解釈はいったん、留保されていること。
つまり、伊藤がひとまず「はて」を発する時点では、正確には俳優の気持ちとキャラクターの感情に完全にはコミットしていない。そのとりあえずの「はて」のあとから、じわじわ伊藤の感情が寅子に追いつく演技フロー。
俳優とキャラクターがここまで自然と一致する例は珍しい。これはどこか喜怒哀楽に役者の心身があとからコミットする能楽師の演技に近いと思う。寅子を演じる伊藤は、憑依型の演技というより能楽師タイプの演技なのだ。