◆ビタースイートに尾を引く場面

『虎に翼』
 帰り道、花岡は「駅まで送って行こうか?」とさりげなく聞くが、寅子は事務所に寄っていくと言う。もし駅まで送っていけたら、花岡と寅子は結婚しただろうか? そんなたらればを持ち出すまでもなく、何も言い出せなかった花岡の心境がただただビタースイートに尾を引く。

 何となく気にしているのか、していないのか、寅子が「お互い頑張りましょうね」と手を差し出す。花岡はためらいがちに右手で握り、「ありがとな、猪爪」と返す。そして歩き去る。その背中に向かって寅子が「またね、身体に気をつけてね」と言う。

『虎に翼』
 花岡は何も言わず、さっきまで寅子の手を握っていた右手をあげてあばよという感じ。ふたりを写す引きの画面(構図)が完璧だ。中景には街頭と噴水。花岡の右手。その振りを見て、イタリアルネサンスの画家ボッティチェリが振り付けたかのような美しさを感じた。静かなようでその実ドラマティックな西洋絵画的な物語がそこにはあったからだ。