◆花岡と一心同体の岩田剛典

『虎に翼』
 花岡がもう画面内には登場しないと思うと、脳裏に浮かぶのは花岡と一心同体の岩田剛典が残してくれた数々の名場面である。順番にさかのぼりながら、追想してみよう。

 寅子と花岡が最後に会ったのは、第49回。久しぶりに再会したふたりがベンチに座り昼食をともにするのだが、それぞれ膝に置かれた弁当の中身があまりにも非対称。

 寅子は闇市で買ったお米と卵焼き。花岡はたくわん二切れと小さな握り飯。寅子は思わず弁当に蓋をするが、花岡は告発なんかしないよと涼しい表情。でも明らかに元気がない。明律大学時代はあれだけ寅子と言い合いをしていた花岡の元気が丸ごと吸い取られてしまったように。

 別れ際、寅子は貰い物のチョコレートを半分、花岡に渡す。最初は受け取らない花岡だが、「お子さんに」と言われ、そっと受け取り、「ありがとう、猪爪」と返す。この一間置いた「ありがとう」と花岡の表情がやけに胸に刺さる。疲弊し、渇いた魂から振り絞った感謝の一言だったのだろう。