◆特別な響きをともなう「ありがとう」

 花岡が餓死することをまだ知らないのにすでに目頭が熱くなる。なぜだか無性に。それはおそらく岩田にとっても感謝の言葉が特別なものだからだ。2021年9月15日に1stシングル「korekara」をリリースして以来、ソロアーティストとしての岩田は、自分にずっとついてきてくれるMATE(岩田剛典ファンの呼称)たちへの感謝をことあるごとに口にしてきた。

 ライブのステージでもインタビュー記事でもどこでも。1stアルバム『The Chocolate Box』のリード曲「Only One For Me」はMATEへの感謝を込めて作られたナンバー。

「進めばどんどん 増えていく」や「“ありがとう”の言葉で 伝え切れないよね だからいつか届くまで」という歌詞には感謝を口にすることの重みと言葉だけでは済ませない態度が示されている。

 それだけに岩田が花岡役を通じて言う「ありがとう」もやっぱり特別な響きをともなってくる。寅子への感謝を口にしたのは、第49回だけではない。第7週第32回で、裁判官の試験に合格した花岡とそれを祝福する寅子がレストランで食事をする場面。

 合格の報告を電話で伝える直前の場面でもとにかく花岡は嬉しそうだった(受話器を耳にあてる表情が息を呑む素晴らしさ!)。地元・佐賀まで伴侶として寅子に連れ添ってもらいたい。そう思いながら、寅子のキャリアを邪魔できないというジレンマ。結局レストランでの花岡は煮えきらず、寅子に愛を伝えられない。