◆花岡なしでは物語が成立しない

 轟の悲痛を(おそらく)唯一共有できる視聴者は、花岡なしではこの先の物語が成立しないんじゃないかという不安に打ちひしがれるのではないだろうか。筆者もそんな強い不安を感じたひとり。

 そう感じさせるのは、花岡を演じた岩田剛典の名演が何より大きいと思う。最近はパフォーマー、俳優、ソロアーティストと三足の草鞋を履く岩田だが、俳優としての彼はひとえに“物語る人”であることを確認しておかなくてはならない。

 岩田が演じる花岡悟というキャラクターは、信念に貫かれた、熱く不器用な人。戦後は闇市を取り締まり、食糧管理法を担当する裁判官として職務を全うしようとした。花岡ひとりの人生で本作の物語全編が成立してしまいそうだ。

 花岡のモデルは佐賀県出身の山口良忠判事。1947年に栄養失調で倒れても裁判を続けた。その上で岩田は花岡役に息を吹き込む。視聴者は悲劇の裁判官の人生そのものを見つめながら、同時に花岡役の岩田が独自に醸す佇まいをサイドストーリー的に重ねて見ていたのではないだろうか?