◆中尾彬は「かわいい」!
実際、デビュー時の中尾はかなりキュートだった。映画デビュー作は『真昼の誘拐』(1961年)だが(クレジット無しのデビュー作は1961年公開の『青い芽の素顔』)、彼が本格的に輝いたのは、デビュー作と間違えられる『月曜日のユカ』(1964年)だ。
石原裕次郎の出演第2作にして初主演映画『狂った果実』(1956年)の中平康が監督を担当。共演は加賀まりこ。公開時、中尾は22歳。加賀が21歳のときの作品だ。
同作冒頭。横浜の港に大型船が入港する。すぐ近くにいる修(中尾彬)が、「商売、商売、稼がにゃ」と言う。これが中尾の第一声。続けてユカ(加賀まりこ)が修の背中に貝殻がついていると指摘し、修が「取ってくれよ」と言うと、ユカが「かわいいの」と言って取ってやる。
画面上ではまだふたりの背中しか写っていない。中尾扮する修への第一印象は、そう、加賀が代弁(実況)してくれるこの「かわいい」に集約されている。次の場面で、修が外国人相手にジャスチャーして商売すると、やっと中尾の正面が写る。それを見た当時の観客たちは、なるほど確かに「かわいい」と思ったことだろう。
【こちらの記事も読まれています】