◆若者世代がギャップ萌え

『終活夫婦』(講談社)
『終活夫婦』(講談社)
 中尾彬がかわいいだって!? 晩年の中尾の姿を想像すれば、いぶかしく思う人もいるかもしれない。でも中尾彬に対するかわいいは、若い時分に限定されるわけではない。

 令和に改元されて以来、民放各局はさかんに昭和と令和の世代間ギャップを比較する番組を放送しているが、老年期の中尾は、そうしたバラエティ番組出演がおなじみだった。年配者と若者との対立図式が面白おかしく描かれ、ひな壇上の中尾が大抵、頑固な、ザ昭和世代のキャラクター代表を引き受けていた印象がある。

 若者世代のタレントに容赦なく噛みつき、あえて嫌味に振る舞う。ヒートアップしたあとには、ちょっと照れたように微笑んでもみせる。これが中尾の粋なところ。それを見た若者世代は昭和世代の頑固なステレオタイプを演じるかのような中尾をどこかで、愛おしさも込めてかわいいと感じたのではないだろうか。

 愛おしいの語源は「厭う(いとう)」(嫌う)にあり、かわいいは「可哀想」の変化系と言われる。つまり、嫌味っぽく見える晩年の佇まいは、愛おしさの反語的なスタイルであり、それが単なる頑固ジジイの哀感にならずにかわいいへと転じる。

『月曜日のユカ』をリアルタイムで知る世代には当然かわいい中尾の姿が原点にあるが、それを知らない令和のZ世代なら、嫌味といたわりが響き合う中尾の複合的なかわいさに思わずギャップ萌えだったはず。