◆昭和スターの数少ないひとり
主演映画『内海の輪』(1971年、『月曜日のユカ』の脚本を倉本聰と共同で執筆した斎藤耕一が監督)を見ていると、その初登場場面がやっぱりかわいい。共演する岩下志麻と待ち合わせた喫茶店に煙草を吸いながら入ってきて、隣の席に座る中尾が上を向くと、どことなく田中圭に似ているような。
岩下志麻との再共演作『極道の妻たち 最後の戦い』(1990年)では、冒頭、跡目を継いで四代目を襲名する田所亮次を演じている。同作は岩下志麻の名を映画史に刻む「極道の妻たち」シリーズ第4作にして岩下のシリーズ復帰作。さすがの東映ヤクザ映画の凄みの渦の中では、かわいいなんて形容はどこにも見当たらない。
でもそのかわり、同作からシリーズ出演者に仲間入りした中尾が、存命する昭和スター俳優の数少ないひとりだったことに改めて気づく。今でも存命なのは、岩下扮する瀬上芙有の夫で瀬上組組長役で出演する小林稔侍。それから『男の紋章』(1963年)や『刺青一代』(1965年)などの日活任侠映画の花形だった高橋英樹。
高倉健、菅原文太、渡哲也、渡瀬恒彦、梅宮辰夫、松方弘樹など、任侠映画イコール昭和スターだった時代のレジェンドたちが去った今、中尾、小林、高橋の3人が日本映画界を駆け抜けたスターの生き残りだった。
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