お次も新潮から。

 だいぶ前のことだが、香港へ行くと、路地裏から「社長!」とよく声がかかった。日本人を見ると皆社長なのだが、暇に飽かして近寄ってみると、キンキラキンの腕時計が多かった。

 ロレックスやオメガに似せた模造品で、その当時で大体3000円ぐらいではなかったか。

 私はそういうゲテモノは嫌いではない。よく見れば安物と気づくが、遠目だと本物らしく見える。宝石がデコデコ周りについたロレックスをいくつも買ったものだった。

 当時は自動巻きだから、1日1回はネジを回さなくてはいけない。3,4日して成田空港に着くと、不思議に壊れて動かなくなった。

 よくできているなと変に感心したものである。

 中国で、ゴルフのドライバーを買ってきたことがあった。アメリカのメーカーのものを製造している中国の会社が、中国人向けに横流ししているものだという。

 そのショップには世界中のメーカーのゴルフクラブがずらっと並んでいた。

 帰国して楽しみにゴルフ場へ持って行った。スタートホールの第1打。ボールに当たった瞬間、ヘッドがへし折れてしまった。

 今は知らないが、以前、中国には偽物見本市というのがあった。ヴィトンやプラダの偽物が堂々と売られていたのだ。それはなかなかのもので、プレゼントした人間がヴィトンに直しにいかない限り、バレることはないといわれるぐらい精巧だった。

 中国という国は偽物を楽しむ文化があるのではないか。今はそうした文化は鳴りを潜めたようだが、ちょっぴり寂しい気がする。

 だが、新潮によると、イタリアのミラノでは、不法滞在者や不法移民たちが、朝6時半から深夜まで休日なしのフル稼働で働かされながら、ルイ・ヴィトンやクリスチャン・ディオールのバッグをつくらされていて、ディオールはこれらの工場に対して、バッグ1個当たり約9200円を支払い、約44万円で販売していたというのである。

 薬九層倍という言葉があるが、その上を行くアコギな商売ではないか。

 背景にあるのはイタリアに流入してきた中国人労働者の存在だという。

「イタリアは欧州でもとりわけ中国人移民が多い国で、増え始めたのは2000年代に入ってから。中国北部にある炭鉱の閉山であぶれた失業者を、先にイタリアに入国していた第1世代が呼び寄せて安くこき使うという構図が出来上がった。15年には中国人移民の数が26万5000人にも達していますが、報酬はもちろん激安。イタリアの賃金は最低でも時給9ユーロですが、彼らは2~3ユーロ(340~510円)で働かされているのです」(ミラノ在住のジャーナリスト・新津隆夫)

 ルイ・ヴィトンなどを傘下に置く世界最大のラグジュアリー企業「LVMH」の売上は約14兆円だそうだ。

 これからは、ヴィトンやディオールのバッグを持っている人間を見たら、9200円の安ものバッグを持っているといってやろう。