アニメよりも「絵空事」感が強まった実写版

 雫のお父さんは図書館の司書、お母さんは大学院に通っているため、慎ましい団地生活を少女時代の雫は送っていたのですが、実写版ではかなり大きめな一軒家暮らしとなり、アニメ版での生活臭はまったく感じさせません。

 細部のこだわりが実写版からはきれいさっぱりに消滅し、昔なじみの喫茶店のあった場所が整地化され、チェーン系のカフェに建て替えられたような侘しさが実写版からはするのです。

 松坂桃李はアニメ作品を実写化する上で、チェロ演奏シーンにリアリティーをもたらそうと懸命に努めていることは伝わってきます。清野菜名が『キングダム2 遥かなる大地へ』(2022年)と180度異なる役を演じているのも評価できます。出版社で働きながら、作家を目指すという雫の甘い考えを、ガンガン責め立てるパワハラ上司役の音尾琢真もいい感じです。『耳をすませば』というタイトルを回収する「地球屋」の主人役の大ベテラン俳優・近藤正臣は、もはや文句のつけようがありません。

 でもね、アニメ版以上に実写映画版のほうがファンシーで、お花畑状態になっているわけですよ。アニメより、実写映画のほうが絵空事感が強いというのはどうなんでしょうか。