◆あからさまに病的よりあきらかに元気
木梨は、佐藤健との共演映画『いぬやしき』(2018年)でも、余命宣告されたサラリーマンを演じていた。
ただ、いつでも溌剌な雅彦とは違い、同作の犬屋敷壱郎は終始どんよりしている。家族には取り合ってもらえないどころか、ほとんど無視されている。
せっかく購入したマイホームだったのに、あまり喜んでもらえず、奮発したシャンパンとキャビアをひとり孤独に食べるしかない。家族のために賢明に働いてきた中年男性の底しれない哀しみがにじんだ。
同作の中年役を踏まえると、『春になったら』で初老を演じる木梨の演技がより鮮やかでリアルに感じてくる。
あからさまに病的な中年より、あきらかに元気な初老のほうが演じるのはきっと難しいはずなのにだ。