◆木梨憲武にしか表現できない

 元日早々、余命3ヶ月だと告げる父・椎名雅彦(木梨憲武)。

 いつもの冗談だと思ってまったく取り合わない娘・椎名瞳(奈緒)は、10歳も年上の売れない芸人・川上一馬(濱田岳)と結婚することを逆報告する。

 冗談っぽく見せながらもほんとは動揺しているはずの雅彦、決死の告白は、うやむやにかき消されてしまう。

『春になったら』第1話で描かれる冒頭場面を見て、父と娘の間に流れるこの哀しみと可笑しみは、木梨憲武にしか表現できないなと思った。

 哀しみを笑いに変え、笑いを哀しみに変える。あるいは、その場に応じて意味をズラしていく。反対の感情が木梨によって矛盾なく、画面内を満たす。

 タレント活動だけでなく、木梨の軽妙な瞬発力がお芝居にも豊かに応用されている。