◆木梨の発声に涙
伊豆の海は特別に美しい。海とはどんな場所にも固有の特別さがあるものだが、海水浴の定番、神奈川県、湘南一帯や千葉の開放的な海に比べ、伊豆の海はややこじんまりとしながらもちょうどいい空間が魅力。
下田の海が画面いっぱいに広がる。下手からまず先に木梨がフレーム・イン。奈緒が続くが、この瞬間しかないという絶妙なタイミング。次のカットでは、雅彦と瞳が海岸を歩く姿が延々捉えられる。
足並みが揃っているようで揃っていない感じもいい。ここは雅彦にとっての思い出の場所。先立たれた妻との馴れ初めを語りだす。
出会いは海の家。大学の先輩と後輩。連絡先は交換したが、友達以上にはなれず、切ない月日が流れた。
結婚したのは付き合ってすぐ。雅彦が31歳、妻が29歳。10年の片思いを経て結んだ結婚だった。当時を思い起こす雅彦が、自嘲まじりに「たっ、(トゥフフ)」と発する。
力強くも優しげなこの木梨の発声に筆者は涙した。