◆夫に復讐しても妻の心は満たされない
一方の夫・透は息子がいなくなったことは寂しいが、前を向いて生きようとする。
以前から出演していたテレビに復帰、息子が亡くなったことも赤裸々に告白、世間からは同情を集めていく。美咲としては、息子の死を仕事に活用しているように見える夫への不信感が募るばかりだ。
このあたり、セリフにはなっていないのだが、透がテレビ出演の件を妻に伝えたときの高梨臨の表情がすべてを物語っている。透は、そんな妻に「自分だけ悲劇のヒロインになっている」「責められているような感じ」を受け、それがプレッシャーとなってますます気持ちが愛人へと向いていく。
美咲は「仮面さん」からの連絡を待ち、復讐へと手を染めていく。夫が愛人と一緒にホテルに入っていく場面を妹に手伝ってもらいながら撮影、写真を夫の勤務先へと送りつけた。敏腕編集者を失いたくない会社は金で解決を図ってくる。
100万円の束をいくつも積み上げ、美咲はぼんやりした表情でそれを弄(もてあそ)んでいる。大金が手に入ろうが、夫がボーナスなしにされようが、彼女の心は満たされない。虚しさがつきまとう顔に復讐の快適さはないのだ。