◆「助けを求めること」が難しい状況がある

スマホを操作する手元
※イメージです(以下、同じ)
 外から状況が把握しづらい家庭内暴力の実態。とはいえ、配偶者などから暴力を受けているとしても、当事者自身が声を上げたり助けを求めたりすれば、解決の糸口に繋がるように思えます。しかし、そうはいかない現実があるということに、杉山さんはさまざまな事件の加害者と対峙する中で気づいていったといいます。

「暴力とは、相手のよって立つ価値規範を変える力です。相手を自分の支配下に置きたい。コントロールをしたい。しかし、どれだけの暴力が家庭内で行われていようとも、その渦中にいるとき、当事者はそれを俯瞰して見ることが非常に難しい。そのため加害側もと被害側もそれを自覚していないパターンがとても多いです。

 先ほどお話したとおり、加害者・被害者の立場も複雑で状況により入れ替わることもある。客観的には加害をしていても『自分は悪くない』と心の底から思っていたり、ともすれば正義感から暴力を行っていたりもする。被害者自身も加害されていることを自覚しにくく、その場合いくら外野が『あなたは暴力を受けているんだよ』と伝えても、理解してもらえないのです」

 長年にわたり、児童虐待事件の取材を続けている杉山さん。しかし、それ以前に書いていた最初の著書『満州女塾』の執筆が児童虐待の構造を理解する上で役だったと言います。