◆吉田羊演じる詮子の暗躍に通ずるところも
となれば、『源氏物語』のエピソードや設定を織り交ぜながら紫式部(と藤原道長)の生涯を描く『光る君へ』とリンクしているように感じられるのも自然なことだろう。宮中の権謀術数ストーリー、とりわけ吉田羊演じる藤原詮子が見せた動きは、『烏は主を選ばない』と重なって見えるところがある。
詮子は弟・道長(柄本佑)を政(まつりごと)の中枢に据えるために、左大臣の愛娘・源倫子(黒木華)と結婚を提案したり、息子である一条天皇(塩野瑛久)を説き伏せるなど暗躍するが、詮子の恐ろしさが際立ったのは、道長のライバルとなる藤原伊周(三浦翔平)らが失脚した「長徳の変」での立ち回り。
花山院(本郷奏多)に矢を射かけた疑いで謹慎の身となった伊周ら。そこに詮子が体調を崩し、彼女の寝所のまわりに呪符が見つかったことをきっかけに、伊周らが詮子を呪詛したと疑われ、彼らは流罪というさらに厳しい処罰を受けることに。
しかし、この事件にはウラがあることが匂わされていて、解釈はいくつかあるが、多くは「詮子は仮病であり、詮子が道長の政敵を陥れた」と考えただろう。
この、ひとつの事件の裏にさまざまな思惑がうごめき、最終的に意外な真相が浮かび上がるという展開は、『烏は主を選ばない』のハイライトにも起こる。
同作後半では、東家の姫・あせびと親しくなる女房の早桃(さもも)の死をきっかけに桜花宮がきな臭くなっていく。そして桜花宮で起こる不審な事件がすべて、あるひとりの人物に結び付くことが判明する第12話のラストから第13話にかけては、思わぬ人物が“真犯人”であるという意外性とその真相の恐ろしさで、「衝撃的な真相に鳥肌立ちまくり」「最後まで騙(だま)された」と視聴者に衝撃を与えた。
若宮がさながら探偵役となって何が起こっていたかを解き明かすあたりは本格ミステリーのようで、この后選びを描いた原作小説第一弾が第19回松本清張賞に輝いているのも納得だ。