◆クライマックスは5回録り直し

――本作は、長年にわたり個人映像作家として活動してきた塚原重義監督による初の長編アニメーション映画で、探偵・荘太郎が奇怪な集団失踪事件を追って、謎多き地下世界“クラガリ”に足を踏み入れていくミステリー作品。幻想と現実が入り混じり、どこか懐かしさも漂うレトロな世界観も魅力です。ご自身で思う名シーンは?

『クラユカバ』©塚原重義/クラガリ映畫協會
伯山:「クラガリに曳(ひ)かれるな」というセリフがでてくるクライマックスのシーンだったかな。そこは監督のOKが出ていたのですが、生意気にもちょっと違うかなと思い、大事なシーンだったので「もう1回録っていいですか?」と相談したんです。

それで録ったら監督も「なるほど確かにこっちの方がいいですね」と。もちろん僕は素人なので監督がOKならOKというスタンスだったのですが。あとでその話を塚原監督にしたら、いや5回録り直しましたと言ってました(笑)僕の記憶はいい加減なものです。

―― どう自分で納得したのですか?

神田伯山
伯山:どことなくミステリアスで聞いていて耳障りがよく気持ちよく、それでいてちゃんと荘太郎の声になっている、奥行きがある。それを聞いた後、お客様に余韻が残る、そういう感じですね。

非常に表現が難しいのですが、ミステリーはどこまでも不思議なんですよね。これで解決なんですけれども、もしかしたら続編もあるのではないかという、余韻をこの一言で表現することが大事だと思ったんですよね。

だからこそ「クラガリに曳かれるな」というのは、作品のテーマにもなっているんですけれども、そこでボソッということが大事。何度も録りましたし、納得いくものにしたいので大事にしましたね。みんな不思議が好きなんですよね。ドキドキしたり。なので、最後が閉まる、このセリフは特に大事にしようと思ったわけです。