◆胸の痛みは満潮となった
水希はそのまま大学を辞め、夏から離れる。
「夏くんより好きな人ができちゃった」それは水希のせいいっぱいの嘘で、でも本当でもあって。
そして夏は勘違いしてしまう。ここで夏が、夏より好きな人とは水希に宿った子供であることに気づけばよかったのに、というのも酷な話か。
水希が選んだ相手に「散々ふりまわされてどうせ最後は捨てられる」と、夏は悔し紛れに予言するが、それは当たってしまった。水希は海を捨てたわけじゃないけれど、娘を母のない子にしてしまうのだから。
それから8年、いま、夏の家には海がいる。海の持っていた水希のスマホには、海が撮ったムービーが保存されていた。
そこで水希は寒いのが苦手と言いゴロゴロして、「夏が好きだから」「夏が一番好きなの」「夏はママがもらいました」「(冬眠とは)夏がお迎えくるまでひっそりしていること」と「夏」を連発する。
これはsummer ではなく自分のことだと感じたかのように夏は涙する。でも、水希が一番好きなのは、海。
海にもう1回見せてと言われてスマホのムービーを再生すると「海好きー」「海大好きー」と絶叫する水希。ここでようやく、あのとき水希が、夏より好きな人ができたと言った真実に気づいても、あとの祭り。
8年も前に取り返しのつかないことをしていたと、後悔の海に溺れそうな夏の心情に、主題歌back number 『新しい恋人達に』がかぶさって、胸の痛みは満潮となった。