◆目黒蓮と古川琴音のやりとりは涙なくしては見られない

複雑な人間もようを、言葉の魔術師・生方美久の巧みなセリフが彩る。固有名詞の「海」と「夏」と人名の「海」と「夏」でいささかややこしい、これがポイント。「海好き」「夏好き」がダブルミーニングになる。

なにごとも曖昧(あいまい)な夏に対して、自分の意思がしっかりし過ぎている水希。性格は対称的だが、水希はある点においてはなぜか曖昧になる。そこで生きるのが「海」と「夏」の言葉だ。

(C)フジテレビ
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大学時代、夏とつきあい、水希は妊娠した。中絶するための書類に夏にサインをもらおうとするとき、気丈にふるまう水希と、驚きとなんともいえないじわじわした感情が心と瞳を浸していく夏。

「ごめん」「一週間不安だったよね。ごめん 気づかないで。ひとりで一週間も。不安な思いさせてごめん ごめん」とひたすら謝る夏。こみあげてくる水希。彼女は、夏に迷惑をかけたくないと思っている。

「書いて」と促す水希に、「ほかの選択肢はないの?」と夏はちゃんと彼女の気持ちを慮り、中絶以外の選択肢はないのか問いかけるのだが、「私が決めていいでしょう」と押し切られ、泣きながらサインをしてしまう。

このシーンの目黒蓮と古川琴音の不器用すぎるやりとりは涙なくしては見られない。ふたりとも型にはまらない、心の揺れを演じている。

若すぎて青すぎるふたりの意地っぱりと勘違いの思いやりが折り重なって、取り返しのつかない瞬間が出来上がる。

何よりも胸に迫る思い出とは、ほんの数秒のズレによる取り返しのつかない一瞬なのだ。