◆緊張感を1秒も途切れさせることなく2時間10分やりきる勝村と向井

勝村と向井は、劇中劇で描かれる過去の物語と現実の、二重構造の世界のなかで、緊張感を1秒も途切れさせることなく2時間10分やりきる。彼らが張り詰めた空気の間合いを少しでも間違えたら、売りの怖いシーンで、観客がは!と怯(ひる)むことができなくなってしまうし、それらのあとのなんともいえない余韻も楽しめないだろう。重責と思うが、ふたりという少数精鋭だからこそ、的(まと)のど真ん中を射抜く瞬間が生まれるのかもしれない。

パルコ・プロデュース 2024 ウーマン・イン・ブラック ~黒い服の女~
パルコ・プロデュース 2024 ウーマン・イン・ブラック ~黒い服の女~より 撮影:御堂義乗
勝村政信は名実ともに信頼感の高い名優であり、劇中劇の何役かを軽やかに鮮やかに演じ分けて見せる。このキップスに演技を教える役割もある向井はさぞかしプレッシャーなのではないか。でもそんなことは感じさせず粛々(しゅくしゅく)とやっているように見えた。

向井演じる“若い俳優”にはしょっぱなから長台詞がある。向井の声はひじょうに聞き取りやすいことを舞台で改めて感じる。音楽のように流して心地よく聞かせるのではなく、ひとつひとつの単語の意味を観客の頭に手渡すようでとてもわかりやすい。キップスにダメ出しするときもさほど上から目線に感じない、フラットな話し方だった。こういう先生がいたら教え上手と言われそう。