ざわ。と客席の空気が変わった。ある場面で向井理が客席通路に現れたときのことである。小さく声を出す観客もいた。そのまま観客たちは彼の軌跡(きせき)をじっと目で追った。

パルコ・プロデュース 2024 ウーマン・イン・ブラック ~黒い服の女~
撮影:御堂義乗
◆向井理と勝村政信、俳優の実力が試されるふたり芝居

向井理が出演する舞台『ウーマン・イン・ブラック』(パルコ・プロデュース)は、イギリスを舞台にした怪談めいた物語だ。

向井演じる“若い俳優”のもとに訪ねてきた弁護士キップス(勝村政信)が相談ごとをもちかける。過去に体験した身も凍るような出来事を再現し、家族に語り聞かせることで解放されたいと願う。だがいかんせん演じることに素人だからうまく演じることができない。“若い俳優”はキップスの代わりに若い頃のキップスを演じることになる。

パルコ・プロデュース 2024 ウーマン・イン・ブラック ~黒い服の女~
パルコ・プロデュース 2024 ウーマン・イン・ブラック ~黒い服の女~より 撮影:御堂義乗
ロンドンで誕生し30年以上ロングランを続け、世界40余国で上演が行われ日本でも俳優を代えながらすでに7回(今回8度め)も上演している作品なのでおもしろさは折り紙付きで、観客としてはただただ身を委ねて恐怖エンタメを楽しめばいい。キップスが経験した恐怖とは何なのかーー観客もそれを同じように体験することが醍醐味で、どきり、ひやりとなる箇所がいくつも用意されている。

パルコ・プロデュース 2024 ウーマン・イン・ブラック ~黒い服の女~
パルコ・プロデュース 2024 ウーマン・イン・ブラック ~黒い服の女~より 撮影:御堂義乗
大変なのは俳優たちだ。ふたり芝居なので、休憩入れて2時間10分、ひたすらふたりでずっとしゃべり続けないとならない。俳優の実力が試される作品なのである。小道具の移動なども自分たちで行う。