◆日本独自のブルースを開拓

 淡谷のり子がほんとうにすごいのは、ある意味では彼女を置いて他には世界に通用する歌手はいないということ。「別れのブルース」や「雨のブルース」など、タイトルにブルースと入っているが、アメリカ南部ミシシッピ発祥の音楽ジャンルであるブルースとは実は似て非なるもの。

 ブルースに「The」をつけて発音すると「憂鬱」を意味するのだけれど、まさにこの憂鬱な雰囲気が淡谷のブルースナンバーとして精神的に流れていると解釈できる。本場のブルースとは全然違うけど、日本独自のブルースではあるという。

 言わば、淡谷は別ジャンルとしてのブルースを遠く日本で確立した開拓者だった。そこから日本ブルースのフロンティアは広がり、1970年代の演歌まで脈々とつながる。

 淡谷のり子がいなければ、『夜明けのブルース』の五木ひろしだってきっとデビューしてなかったんじゃないか。日本独自のジャンルを開拓した淡谷の功績は計り知れない。