◆一期一会という言葉の意味が、前よりも深くなった

池上季実子
――人と会うことが難しい、孤独感が増した時期でもありましたね。

池上:仕方がないんですよね。生きている人で回っていく世界だから。でも自分が外に出ていく、仕事をしていたという感覚がないくらい、止まっていた感じがあったんです。そこへ、撮影がコロナで止まっていたこの映画の話が再び来たのですが、「季実子さんどうしますか?」と聞かれたときに、ダムの決壊みたいにバーッ!と感情があふれ出したんです。

知らない間に自分がフタをしていたのか閉じていたのか、その言葉ひとつで「やります!」と決めました。それで治療も進んだような気がするんです。人間は目標があるとアドレナリンが出るもので、わたしの先輩にもいましたよ。現場で胃痙攣を起こしたけれど、本番になったら治っちゃった方が。役者はこういう異常なアドレナリンが出るものなのですが、それに近いと思う。

――もしかすると50年前のデビュー当時より、今のほうが仕事は楽しいのではないでしょうか?

池上:そうかもしれないです(笑)。楽しい感覚は同じですが、何か違うところはある。今「ここにわたしはいる!」みたいな感覚があるかな。あの時わたしが死んでいたら、今ここにはいないんだ、みたいな、そういう想いはあります。

一期一会という言葉の意味が、前よりも深くなったとは思います。もしも2022年に死んでいたら、今こうしてわたしたちも会えていなかったわけですよね。せっかく会ったんだから、これはきっと意味があるって思うようになりました。

――つらい経験も意味があったと受け止められることは大切なんですね。

池上:わたし、こんなにおしゃべりじゃなかったんですよ(笑)。プライベートではしゃべるけれど、取材の人に対してしゃべるタイプじゃなかったんです。でも退院してから、誰とでもしゃべるようになった。しゃべり急いでいるような感じかな(笑)。生きているうちに、これを言っておきたい、あれを伝えておきたいと、すごいしゃべっている気がします。「お願い、わたしの話を聞いておいて!」みたいな感じかな(笑)。

<文/トキタタカシ>

【トキタタカシ】

映画とディズニーを主に追うライター。「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経てフリーに。故・水野晴郎氏の反戦娯楽作『シベリア超特急』シリーズに造詣が深い。主な出演作に『シベリア超特急5』(05)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)などがある。現地取材の際、インスタグラムにて写真レポートを行うことも。