◆産まれる前から、人間はすでに不公平

 自分と息子の「特別な才能」を継いだ3代目が見たい女性。彼女は代理母出産の契約に2千万円を出すことも厭わない。息子はそんな母に同調、自分の遺伝子を継ぐ子を切望する。その妻は、産めないことへの強いコンプレックスを抱えている。代理母を頼むのは「搾取」だと非難しながら、夫の意図を翻せない。心は少しずつ夫から離れていく。そして代理母は、金のために子宮を売り渡す。

 大石理紀(リキ)は、都内の病院で事務職として働く派遣員だ。古くて薄暗い病院で、朝8時から夕方5時半まで働いて手取りは14万円。日当たりの悪い格安アパートに5万8千円の家賃を支払い、残りの8万2千円で暮らしている。生まれ育った北海道で介護の仕事をしながら200万という金を貯めて、何もない場所から何でもある場所、東京へとやってきたのだが、生活は苦しく、まったくゆとりが持てずにいる。

「一度でいいからお金の心配のいらない生活がしたい」と思うほど、リキは日々、汲々としている。同じ給料でも、東京に実家がある人ならまったく違うお金の使い方ができるはず。産まれる前から、人間はすでに不公平なのだ。同僚のテルは、給料だけでは暮らしていけないと週末には風俗の仕事をしているほどだ。

 そんなテルから、卵子提供のアルバイトがあると言われたのが、物語の発端だ。リキを演じているのは石橋静河。どこか投げやりな感じ、心の中をうまく言語化できず、だが自分の不満や置かれた現状を客観視できる今どきのアラサーを、ごく自然にリアルに演じている。