■“災難”って言っちゃったごめん
“災難”という言い方は非常によくないね。自分の知らないところで、元カノが子どもを産んでいた。その元カノが死んで、残された子どもがいきなりアパートを訪ねてくる。
「夏くん、海のパパでしょ? 夏くんのパパ、いつはじまるの?」
災難ではないけれど、突き付けられた「血縁」という逃れられない重責は、恐怖でしかありません。
亡くなった水季の母親(大竹しのぶ)が、葬儀場のバスターミナルで「海はあなたの娘だ」と告げるシーン。大竹しのぶの厚化粧に埋め込まれたビー玉のような真っ黒い瞳。
アパートに帰ったら、昨日まで美人で頼れる優しい年上彼女だった弥生さんが、一転して「なんにも知らねえ女」に変貌してしまっているという絶望感。
持ち前のセンス台詞とテクニカル演出を存分に発揮しながら、夏くんを「血縁」という呪いに巻き込んでいく。まちがいなく『海のはじまり』はホラーです。何年か前に遊川和彦さんの脚本で『過保護のカホコ』(日本テレビ系)という血縁の呪いが伝播していく様を描いたホラードラマがありましたが、あれよりキツイかもしれない。