◆完全にチャップリン? 朝ドラの喜劇王

『虎に翼』© NHK
 第8週第40回。優三が寅子に見送られて出征する後ろ姿を思い出してみる。どこか柔らかくペーソス漂うその背中は、喜劇王チャップリンさながらではなかった。

 するとどうだろう。優三の後に三枚目役を引き受ける多岐川の口元にはちょび髭。山高帽とともにチャップリンのトレードマークになっていたのが、ちょび髭だ。ドタバタな動きを特徴とするスタイルは、スラップスティック・コメディと呼ばれる。

『街の灯』(1931年)のチャップリンに負けないぐらい、ぐでんぐでんの酔いどれになったり、「眠気覚ましだ」と言って、「ピンピンピンピンピン……」と発しながらわけのわからない踊りで身体を温めようとする多岐川は、まさに“朝ドラの喜劇王”である。

 でも単にコメディアンなわけでもない。実は戦後、困窮する子どもたちを見て、自分の人生は彼らのために捧げる覚悟を決めた熱い人物でもある。

 多岐川の口癖は「つまり、愛だ」だが、その意味でも、戦後、世界の映画人に温かく愛のあるエモーショナルな表現性で影響を与えたチャップリンとやっぱり共通するなと思う。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】

音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu