◆吉田監督の過去作も「覚悟と負担」が必要な作品だった
また、吉田監督の作品は今回の『ミッシング』に限らず、人間の暗い感情、はたまた醜い姿が容赦なく表れていて、見たくはないはずなのに目が離せなくなる、胃がキリキリと痛くなるような悲喜劇が描かれることが多い。いい意味で「キツい」作品を手がけるからこそ、演じる俳優にもかなりの覚悟と負担を強いるタイプの作家だと思うのだ。
しかし、石原さとみは吉田監督の『さんかく』(2010年)から「沼」にハマり、『ヒメアノ~ル』(2016年)で森田剛のイメージがシリアルキラーを演じたことで本当に覆され、「自分がそれまで携わってきた作品と、この監督の作品は、全然違う」と感じ、異常なほど惹かれていったという。
そのうえで、吉田監督に直談判し、役を勝ち取り、期待に応えるどころではない演技をみせた石原さとみの執念を、改めて称賛せざるを得ない。
そして、吉田監督(脚本も兼任)らしい、観客にもいい意味での覚悟と負担を強いる物語が作り込まれているからこそ、「二度は見たくないが、一度は絶対に見てほしい傑作」に仕上がったのだろう。
「これまでと違う」どころか、やはり「壊れた」ようにさえ見える石原さとみから最後まで目をそらさず、その姿を頭に刻み込んでほしい。
※吉田恵輔監督の「吉」は「つちよし」が正式表記
<文/ヒナタカ>
【ヒナタカ】
WEB媒体「All About ニュース」「ねとらぼ」「CINEMAS+」、紙媒体『月刊総務』などで記事を執筆中の映画ライター。Xアカウント:@HinatakaJeF