◆実際に「壊れた」と思わせた
だが、石原さとみの吉田監督作品に出たいという熱意は並大抵のものではなかった。吉田監督の作品を見て「この人だったら私のことを変えてくれる」「絶対に学びがある」と直感で思ったばかりか、「自分を壊してほしい」衝動にかられたとまで、完成披露試写会で語っていたのだから。
そして、実際の撮影で石原さとみは監督に「壊れた」と思わせた。とある知らせを受けて警察署の階段を駆け上がってくるシーンで、最初のテイクでは石原さとみは涙目になりながらやって来たが、ややリアリティに欠けると感じた吉田監督は、「気持ちがぐちゃぐちゃになって、自分が何をしているのかも認識できなくなっている感じ」と伝えたという。
そのリテイクでは、石原さとみは階段の下で気持ちを作っていたため、なかなか姿を見せなかった。そして、いざ本番のカメラが回ったとき、さまざまな気持ちが入り乱れ、舞い上がったような状態になっていた石原さとみを見た吉田監督は「ああ、壊れたんだ!」と思ったそうだ。
「石原さんは悩んだ結果、正解を見失って、何かを降ろしてきたんだろうなと。あれを見た瞬間、怖かったけど、思わずOKと言った。演技とは思えなかった。あれは石原さんにしかできないことでした」とも、吉田監督は振り返っていたという。