◆ネット上で命名された“イマジナリー優三”
そんな優三が戦病死と記された紙切れ1枚で片付けられていいはずがない。大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK総合、2019年)でも妻子を残して戦死する出陣学徒を演じている仲野太賀。
伊藤沙莉との共演で考えても、『拾われた男 LOST MAN FOUND』(NHK BS プレミアム、ディズニープラス、2022年)での共演がふたりの空気感を温めた。
するとどうだろう? 仲野太賀が画面上に呼び戻される。それも想像上の姿を借りて。家族を養うために司法省の事務官の職を得た寅子の気持ちが沈むとき、想像上の姿でふと彼女の隣に現れる。SNS上では、“イマジナリー優三”として話題だ。
第10週第48回、ベンチの近くでハーモニカを吹く男性がいる。その音色をきっかけとするかのように、カットが替わると優三がいる。映像表現で想像と現実が交差するとき、きっかけとなる演出が必要となる。
ハーモニカを使う演出は、例えば、能楽で笛を合図に幕が開いて亡霊が姿を現す世界観を踏襲しているとも言える。イマジナリーな存在ではあるが、優三が寅子に向ける眼差しは、やっぱり誰よりも温かい。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu