◆チャップリンさながらのペーソス

 寅子との間に第一子が誕生する。戦時下だけれど、夫婦だけでこっそり美味しいものを食べて心の平穏を共有する日々。そこへ赤紙が。いざ届くと、「おめでとうございます」なんてすぐに出てこない。

 第8週第40回。優三の出征を寅子は変顔で見送る。優三も変顔で返す。それぞれ、思い思いの表情。でもこらえきれない優三が顔をくしゃくしゃにして、こみあげるものを必死でおさえる。でもダメで、やっぱりこみあげてくる。この場面でのこらえ涙もまた仲野による繰り返しの演技。

 そして一本道を歩いていくエモーショナルな背中は、チャーリー・チャップリンさながらのペーソスを漂わせる。優三が出征する1944年、チャップリンが同年齢の独裁者アドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツを痛烈に批判する『独裁者』(1940年)がアメリカではすでに封切られている。

 二枚目の素顔をあえて白塗りで隠していたのが、チャップリンでもある。