◆仲野太賀が作る表情

『虎に翼』
 彼の誠実さが最高点に達してにじむ、忘れがたい瞬間がある。1938年、高等試験に合格した寅子が日本初の女性弁護士になった朝の場面だ。合格者一覧に自分の名前はない。もう何度目の挑戦だっただろう。ここまでにして、弁護士になる夢は諦めよう……。

 晴れやかな顔をした優三はそう心に決める。一覧からさっと目を離して、じっと間を置く。気持ちに整理をつけ、隣にいる寅子の合格への祝福に切り替える。なんていい表情をするんだ、仲野太賀。

 いい表情ばかりが、演技の華ではないけれど、仲野が作る表情はちゃんとキャラクターの感情の上に成り立っている。奥行きのある、立体的な表情が、優三という人の心の動きをひとつひとつ丁寧に可視化してくれている。