◆制度によって幸せに暮らす家庭を可視化する大切さ

TBSテレビ報道局の久保田智子さん
――やはり過ごす時間の長さが、そういう葛藤を減らしていくものでしょうか。

久保田:本当にそうだと思います。産むということはもちろん、とても尊いことです。そのことをわたしは経験できなかったけれど、毎日毎日一緒にいて、時間を過ごしていることで私たちの家族は強く結びついていると感じています。

まあ、こういうふうにお話しするとすごくいいママなんだろうと感じられてしまうかもしれません。でも実際は映画で描いてないですが、喧嘩もありますし、言い合いもしていますし、ついつい言い過ぎてしまうこともあります。決して現実は甘いものじゃないですし、子育てが大変なことはみなさんと同じです。とても聖人にはなれない、失敗ばかりを繰り返しているのですが、それも含めて、絆は強くなっているなって思いますね。

――特別養子縁組制度をとりまく日本の現状について、課題に感じていることはありますか?

久保田:一番重要なことは子どものための制度であるということですよね。制度によって親も幸せにしてもらっている。育ての親の側も生みの親の側もですが、一歩踏み出すきっかけになっているケースはあると思うんです。でもやっぱり子どものためのものなんだとうことを、より強調していきたいなと思います。子どもの幸せのためにわたしたち大人ができることがあって、この制度はそれをするひとつの手段になっているということを。

また、制度への理解を広めるためには、親子の血のつながりがなくても幸せに暮らしている家庭を可視化することが大切です。わたしたちのようなケースは決して珍しくはなく、この制度で幸せに暮らしている子どもはたくさんいるということを伝えていきたいです。

――最後になりますが、映画を見てくださる人にメッセージをお願いします。

久保田:特別養子縁組は年間の成立件数が600~700件くらいですから、決して多くないケースで、この映画は私たち家族という一例でしかありません。でも、そんなとても個人的こと、とことんプライベートな領域だからこそ、何かしら皆さんの生活にも重なる普遍的な部分も感じてもらえたらなと思います。

自分の家族やお友達、仕事場など、私たちは日々いろんな人たちと関わっています。その人たちとの関係性を少し意識して、いつもより少し丁寧に話をしてみよう、聞いてみようと思うきっかけになれたとしたらとても嬉しいです。

<取材・文/トキタタカシ 撮影/山川修一>

【トキタタカシ】

映画とディズニーを主に追うライター。「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経てフリーに。故・水野晴郎氏の反戦娯楽作『シベリア超特急』シリーズに造詣が深い。主な出演作に『シベリア超特急5』(05)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)などがある。現地取材の際、インスタグラムにて写真レポートを行うことも。