朱仁聡はなかなかアクが強い人物だったようで、長徳3年(997年)10月28日には若狭守・源兼澄に対する「凌轢(りょうれき)」――暴力事件で問題視され、長保2年(1000年)には中宮・藤原定子に商品を収めたのに、料金が未払いであるといって訴えを起こしたことなどが判明しています。

 定子が何を買ったのかまでは、記録に残る「雑物」という記述からはわからないのが残念ですが、以前の放送で、まひろが藤原宣孝(佐々木蔵之介さん)から「唐物」の「紅」をお土産として受け取るシーンがあったように、化粧品の類か、香木などではないかな……と想像されます。

 このような中国からの商人たちを、日本側を代表して接待するのが越前国の国司(越前守)の重要な任務で、漢詩を詠んで饗応するなどの対応も求められていたそうです。思えば花山天皇がまだ東宮(皇太子)だった時代、漢学の才能を評価された藤原為時(ドラマでは岸谷五朗さん)が「副侍読」の職を得たのが貞元2年(977年)のこと。花山天皇はドラマにも描かれたように突然出家し、それによって為時も罷免されてしまいましたから、約10年は具体的な職にはあぶれている状態が続いていました。

 ちなみに花山天皇が即位した時、為時は「六位」の官位をもらっていて、その官位に即した給金がいわゆるベーシックインカム的に支払われていたので、ドラマで描かれたような貧しさと史実は少し違ったかもしれません。しかし、「五位」以上の官位を持っているのが「貴族」で、『延喜式』によると「六位」と「五位」の間には倍以上の収入格差があったので、それなりにわびしい日々が10年も続いていたのでしょうね。