12月末に公開された『光る君へ』の宣伝番組では、五節(ごせち)の舞姫の姿がチラっと映り、紫式部こと「まひろ」を演じる吉高由里子さんまで舞姫の装束だったので驚きました。紫式部が少女時代に舞姫を務めたという記録はないので、完全な創作といえますが、そこまでしてでも失われた「文化」の映像化を(想像力を駆使して)行いたいという、NHK側の意気込みの表れなのでしょう。ほかに、藤原道長を演じる柄本佑さんが乗馬して打毬に興じている映像がすでに公開されていますから、一般的にはあまり馴染みのない平安時代の貴族文化や儀式などの映像化が多くあるはずです。となれば、ある意味、TBSの長寿番組『皇室アルバム』の平安版みたいな内容になりそうな気もしますが、そういう美々しい部分を打ち出すことで、激しい政治抗争の血生臭さとのバランスを取ろうとしているのかな、と想像してしまいます。

 『光る君へ』のビジュアルが発表されはじめた頃は、政治部分の陰惨さはサラッと流して、中級貴族出身のヒロイン=紫式部が、最上流階級との接点を持つようになって、それまでは空想だけで書いていた『源氏物語』を試行錯誤しながら執筆し、その『源氏物語』の内容を劇中劇(もしくはアニメーション)で見せながら、話を進めていくつもりだろうと思い込んでいたので、制作統括の内田ゆきさんが「源氏物語は描かない」「劇中劇みたいなことは考えていない」と先日断言していたのに、大いに衝撃を受けました。脚本の大石静さんは「序盤は通常の大河ドラマよりラブストーリー要素が強いかもしれませんが、一方で当時の政治劇も色濃く描きます」とも語っており、あくまで紫式部を主人公とした宮廷が舞台の人間ドラマとなりそうです。

 登場人物のビジュアルは、「きれいな平安」という視聴者に潜在するイメージに沿ったものなのでしょうが、「たくましい平安」の『平清盛』のものと比べるとあまりに毒気がなく、血で血を洗うような藤原氏の権力闘争を、本当にあのキラキラしたビジュアルのキャラクターたちで描いていけるのか?とも疑問でした。しかしよく考えれば、見た目のきれいさに惹かれて見てみたら、中身はおどろおどろしい人間劇に仕上がっている……というギャップのすごい作品になっていきそうです。