さて、第9回で一向一揆編は終了し、次回・第10回は「側室をどうする!」というタイトルどおり、家康の側室問題がクローズアップされるようです。しかし、西郡局(にしのこおりのつぼね)まで登場するのか……と正直なところ、驚きました。
確かに記録上、彼女は家康初の側室なのですが、どうやら映像作品で取り上げられるのは『どうする家康』が初めてのようですね。第10回の「あらすじ」によると、家康の母・於大(松嶋菜々子さん)が夫婦の間に子が少ないことを心配して側室を迎えるよう訴え、「不愛想だが気の利く侍女・お葉」(北香那さん)こと西郡局が選ばれたという流れになるようです。ドラマでは、家康と瀬名(有村架純さん)の夫婦仲は良好なままですが、史実では、家康と瀬名の関係は悪化していたとみられ、それゆえにこれ以上の子どもの誕生が期待できず、側室が必要という声が家中で大きくなり、ついに西郡局が側室に迎えられた……というあたりではないでしょうか。
徳川将軍の女性関係についての史料の中で、もっとも信頼性が高いとされる『以貴小伝』には「築山殿」こと瀬名姫と家康の関係悪化についての言及はないものの、『幕府祚胤伝』という史料には、岡崎城の近辺に彼女が住んでいたと考えられる築山(つきやま)と呼ばれる遺構が(複数)あると語られています。ドラマの瀬名は「岡崎城近くの築山に、民の声を聞くための庵を開いた」とのことですが、史実の瀬名姫こと築山殿は、岡崎城で家康と同居したくないがあまり、さまざまな建物を回っていたのかもしれません。
『柳営婦女伝系』では「築山殿生(=性)質邪佞」つまり、築山殿は生まれつき性格が邪悪だったと書かれていますが、これも「神君・家康公が苦労して、彼女たちを岡崎に引き取ってやったのに、築山殿ときたら夫と同居したがらず、ヘソを曲げたままの悪女だった」という、後世の家康びいきの評価が反映されているのかもしれません。