◆名前を一度失いながら再起した水上恒司は、喪失の時代の「希望」
水上の場合、健康的な肉体が逆に良さでもある。それまで生きて燃え盛った命の尊さを強烈に感じさせて、逆に良い。
『ブギウギ』でも、弱っていく姿を愛するスズ子に見せたくないと、手紙では前向きなことばかり記し、決して弱音を見せず、最期まで力を振り絞って、スズ子に手紙を書き続けた。
必ず病気を治してスズ子と結婚すると言い続けた姿は、この世から愛助が消えてしまう悲しみよりも、亡くなってもなお、残された人の心に生き続ける希望を感じさせた。
死は悲しい。けれど、その人の生きた証は決して消えない。名前を一度失いながら、再起した水上恒司は、喪失の時代の「希望」である。『ブギウギ』でもきっとこれからも回想シーンでたびたび登場してくれることを期待する。第86回に出てきた、スズ子との箱根で撮った写真の笑顔が最高だった。
<文/木俣冬>
【木俣冬】
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:@kamitonami