◆生と死が矛盾しない演技
2017年に中村は入籍を発表した。同年、子宝にもめぐまれた。家族という社会集団を新たに得た時期に主演したのが、『命売ります』(BSジャパン、2018年)。原作は三島由紀夫。心に穴があいた虚しさから死に憧れる敏腕コピーラーターを活写した、いかにも三島らしいテーマだ。
寺山の『田園に死す』でも夢と現実、生と死の狭間をさまよう少年を演じた中村が、三島作品に主演する流れはよく理解できる。実人生での結婚や子宝など、生きる喜びとは正反対のベクトルを向く主人公を演じる複雑さとは。
いや、そもそも生と死は相反するのではなく、むしろ同じベクトルを向いている観念なのだ。寺山や三島の作品を貫く基本的な考え方だが、生と死が矛盾しない中村の演技もまた社会の真実に肉迫するものだ。
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